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「世界一を目指す必要があるのか」という無理解の被害

次世代スーパーコンピュータは「予算大幅削減」、凍結の可能性も

同会議の作業チームは2010年度の概算予算のうち、同事業に対する補助金約268億円について審査。「世界一を目指す必要があるのか」といった意見が出たという。

基礎技術の継続や、知見の継承を怠る政権などさっさと失脚してしまえ、と呪いたくなるね。何故日本で高度な艦船や高度な宇宙機が作れても高度な飛行機は作れないか、戦後の教訓を知らないのだろうか。

基礎も応用も技術はノウハウの塊であり、応用技術は基礎技術の蓄積の上に立つ。ノウハウは技術が継承されないと消えていく。紙の残った理論だけでは高度な技術の再現はできない。「応用だけでいい」と言えるのは基礎技術が誰かによりパッケージング化されて提供されている場合に限る。

かつて日本にも零戦とか色々開発できる位に航空産業があった。しかし戦後航空技術が禁止されてノウハウの継承が途絶えた。結果として、今は自動車会社が全くの「新規参入」で最初からやりなおしている程の細々とした産業になっている。

ましてスーパーコンピューティング事業はパソコンの高性能化同様進歩の著しい分野であり、一度止めたらそれを支える研究者が逃げ出し(彼等だって成果(=論文)が無いと生活できない)、そしてノウハウは継承されず(どこに行き先が?)、メーカーも部門を止め(優秀な人員が残るわけがない)、5年後に復活させよう、となった所で発展途上国より少しマシ、程度の能力になり、二度と世界最先端の争いには加われないだろう。

「二位以下でもいいじゃない」は通じず「一位を目指すか、最下位グループに落ちるか」なのだ。

そして、昨今コンピュータの計算能力はあらゆる分野で力になっている。

論文を出されてもわからない(本当はこれが基礎となり応用技術に繋がり家庭に反映される重要な点なのだが)という人のために地球シミュレータの利用成果報告からわかりやすい産業利用を引いてくると、2010年から抜きだしただけでもこんなにある。なお、内容はわかる範囲でわかりやすく改ざんした。

  • 製鉄用の高炉のCO2排出の削減 (新日本製鐵株式会社)
  • 遠心圧縮機の空力騒音低減 (株式会社日立プラントテクノロジー)
  • 次世代高速新幹線の騒音軽減 (東日本旅客鉄道株式会社)
  • 車の空力改善 (トヨタ自動車株式会社)
  • 高性能タイヤの開発 (住友ゴム工業株式会社)
  • 電力用半導体デバイスの開発 (財団法人電力中央研究所)
  • 有機EL等の発光材料の開発 (住友化学株式会社筑波研究所)
  • 二酸化炭素地下貯留のシミュレーション技術 (大成建設株式会社)
  • 新薬開発のシミュレーション (キッセイ薬品工業株式会社)
  • 機能性ナノ粒子の設計 (株式会社東芝)

もちろん、科学研究分野でも地球シミュレータ研究成果リポジトリ Earth Simulator Research Results Repositoryを見ると、現時点で8年間2691件もの研究成果が登録されている。

繰り返すが、コンピュータの計算能力は各種分野における力そのものであり、「応用だけでいい」と言えるのは基礎技術が誰かによりパッケージング化されて提供されている場合に限る。そして最先端の技術は理論はともかくノウハウは提供されるわけが無いので、基礎が無ければ応用ができるわけがない。

ここで「多少遅くても問題ないのでは」という人がいるかもしれないので、計算能力が力という簡単な例をあげておこう。

例えば天気予報。1日の計算をするのに3日かかったら予報にならない。1日で終わる計算にしたら精度が下がってあたりにくくなる。そして、科学の進歩は「今まで無視していた細かい計算をきちんとする」など計算能力をどんどん使う方向で進む。昔は地域でしか予報が出せなかったが、今はピンポイントの範囲で予想できる、ということができるようになったのも計算能力のおかげだ。

例えばゲーム。PlayStation(初代)でPS3並の絵を書こうとしたら、1フレームに半年かかる(時間は適当)としよう。けれども一回計算して絵にしてしまえば、後はポリゴンに貼りつけることで綺麗な背景になりゲームに出せる。高性能の計算機で1週間で1画面づつ作れるとしてもやる価値はあるだろう。実際に、Finai Fantasy VII はそうやって綺麗な背景を作っている。最近のゲームも、GIという方法であらかじめ膨大な光の計算をしておいて自然なゲーム画面にしているものがある。

このように、開発競争の中で半年〜数年かかると役にたたないが、1ヶ月〜数ヶ月程度ならかけられる、そういった問題は数多い。これが研究分野になると数十年かかるのを数年で、とかにもなりうる。計算能力があるからこそ新しく試せる事もある。

スーパーコンピュータはそういう分野に使うコンピューターの最高峰であり、使いこなすノウハウも持っていないと数十分の一の性能になってしまうピーキーな機械である。絶対に「他所から買えばいい」ではすまないし、そもそもいつでも売ってくれるかどうかわからない。高性能コンピュータが輸出制限されている(いた)のは伊達ではないのだ。

だから私は分野こそ違うが一時期院生として科学の片隅に触れた身として、この理由による決定を恨むし悲しく思う。

# じゃあ今の京速スパコン計画はどうなの?となるとまた別の問題だが…。それは別の話、いつかまた別の時に話すとしよう。

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